大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)1167号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人田上義智、同西田温彦の上告理由について。

原審の確定する事実によれば、第一審判決添付第一目録の田(以下「本件田」という。)、同第三目録の溜池(以下「本件溜池」という。)は、戦前増井松次郎の所有であつたが、自作農創設特別措置法により国に買収されたうえ、本件田は昭和二二年三月三一日、本件溜池は同二三年一二月二日いずれも亡西村雪枝に売り渡され、その後、同二六年末ころ右雪枝と上告人苗代正之との間に、本件田、溜池について売買契約が締結され、正之は、雪枝の承諾を得て連名で所轄の豊川村農地委員会長あて本件田、溜池を当時施行中の自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政令(以下「譲渡令」という。)によつて雪枝から正之に譲渡する協議ができた旨の届出書を提出し、この届出に基づき豊川村農業委員会は審議を行ない譲渡の承認を可決し、右土地について、譲渡人雪枝、譲受人正之とする強制譲渡計画を定め、本件田について大阪府知事あて認可申請書を作成したが、その後の手続を怠り、ついに譲渡令書の交付のないまま農地法の施行された昭和二七年一〇月二一日を経過したものであるというにある。

右の事実関係に照らせば、前記契約が県知事の許可を条件とする売買契約であれば右契約は無効と解すべき旨、右契約をもつて譲渡令施行令三条にいう協議としての効力があるが、譲渡令が廃止され、農地法が施行された後において強制譲渡の手続を受継ぐ手続は、農地法施行法一三条による農地法一五条およびこれに関連する法令による手続であると解すべき旨、ならびに本件の事実関係のもとにおいて、右農地法の規定に基づく手続が履践されて本件田、溜池につき上告人正之が譲渡を受けてその所有権を取得したものとは認めがたい旨の原審の各判断は、いずれも正当としてこれを肯認することができる。この点に関する所論の見解は採用しがたく、原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例